インタビュー

 

日本広告業協会では、2022年に会員社を対象に「DE&Iに関するアンケート調査」を実施し、2023年4月にリリースを発行いたしました。リリースには、DE&I領域に深い知見をお持ちの3名より、アンケート結果を見た感想/なぜ今DE&Iに取り組まなければいけないのか/広告業界に対する課題提起や期待などを伺い、インタビュー記事として掲載しています。
ここでは、インタビューロングver.としてお届けいたします。

松田崇弥 氏

株式会社ヘラルボニー  代表取締役社長

小山薫堂氏が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の松田文登と共にヘラルボニーを設立。
「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。著書『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』。

───広告制作にも携わったご経験がある松田さんですが、今回のアンケート結果をご覧になっていかがですか。

 

DE&Iに対する機運の高まりを感じました。障害福祉分野に積極的に携わっている者からすると、障害者雇用率2.3%を達成していないという社が6割で、「自社で取り組むべきDE&Iに関する課題」に障害者雇用を挙げている回答も少ないという結果を見て、“障害”“障害者雇用”というところはあまり問題意識として上ってこないのかなと思いました。

広告業界が世の中に与えるインパクトは大きいので、雇用の上でもDE&Iを進め、そこから生まれるクリエイティビティで間違いなく大きな変化を起こせる。広告業界が変われば社会の意識も変化していくと思います。

───世の中に発信したメッセージやクリエイティビティは、時として目指した意味合いとは別の意味で受け取られたりすることもあります。松田さんご自身も社会に向けて発信する機会を多くお持ちですが、広告業界のような世に発信する立場の者が持つべき視点や姿勢とはどのようなものであるべきでしょうか。

社会を前進させるというマインドを持つ

 

色々な正義、色々な価値観がある。自分の意見が、100人いたら100票入る意見ではないと分かっていながらも、自分自身、納得感をもって発信しているので批判的な言葉も気にならないのかもしれないです。

クライアントの要望だけでなく、仕事の成果と比例して社会を前進させる広告を打ち出しているというマインドや担当者の感情があると広告も変わるはずです。あとはトップの意見も反映されていくとゆるぎないものになります。

世に出ている広告を見て思うのは、特にインターネット上で、広告によっては自分の子どもに見せたくないものもあります。倫理観がもっと整備されると良いですね。

 

───企業内の多様化が今後の新たなクリエイティビティにつながると思いますが、そのために当事者の方との関わりや知識習得の際のポイント、障害者の方達と協働することに関心の低い人に対する効果的な取り組みなどがあれば教えてください。

 

まずマインドとして、障害を面白いものと思ってもらうことが必要です。茶化すのではなく、面白がって愛してもらうこと。そのためには、障害のある方一人一人が持つ独特なルールを理解するとか、あとは実際に障害のある方に会うというのは即効性があります。
ヘラルボニーでは、障害のある方と一緒に企業講演に出向いたり、福祉施設等へのアテンドをしたりもしていますが、始まりと終わりでは障害のある方に対する反応がまるで変わります。こうした出会いを機にコラボレーションが始まることもあります。

仕事のインセンティブに関連づけることも効果的です。たとえば、工事を担う企業から「工事成績評定」で点数を得て、次回の案件を獲得しやすくするため、障害のある方の描いたアートを工事の囲いの壁に取り入れたいと声をかけられたことがあります。

インセンティブがきっかけでも良いので、ゆくゆくは障害のある方との関わりそのものを好きになってもらえるような仕組みがあると良いなと思います。

他業界を巻き込む鍵は仕事のインセンティブ
社会性と経済性の両輪で事業成長につなげる

 

───DE&Iを推進するにしてもコストがかかるなど、経済性の観点からの意見もあり進みにくい面もあります。企業経営における社会性と経済性をどのようにお考えですか。

 

業界によっては社会性と経済性の両立は厳しいとも思いますが、その中でも出来ることはあります。“人種や性別などが異なる誰もが使いやすいか?”という視点を経営会議で議論し、事業成長につなげている企業もあります。広告においては、健常者前提で資本主義の側面が強い。全員が楽しめる広告やクリエイティビティはどのようなものかを検討・指標化する有識者会議をつくるなどして、健常者だけではない、多様な世の中に対してもっと広く多くの人に届けられる広告につながると良いと思います。

それから、インセンティブに関連づけることも一つあると思います。たとえば広告制作においてDE&Iに関するチェック項目を作って、それを全て満たしていたら広告枠が安くなるなど、業界が一緒になってインクルーシブな社会を前進させるような動きがあると良いですね。

広告業界は以前では考えられないくらいの働き方改革も行われています。業界として大きく変化している印象なので、経済性との両立も踏まえたDE&Iを更に進め、多様な人達から当事者としての意見を取り入れ、広告・広告業界の変化を通じて社会の変革を推進してもらえたらと期待しています。