インタビュー

 

日本広告業協会では、2022年に会員社を対象に「DE&Iに関するアンケート調査」を実施し、2023年4月にリリースを発行いたしました。リリースには、DE&I領域に深い知見をお持ちの3名より、アンケート結果を見た感想/なぜ今DE&Iに取り組まなければいけないのか/広告業界に対する課題提起や期待などを伺い、インタビュー記事として掲載しています。
ここでは、インタビューロングver.としてお届けいたします。

入山章栄 氏

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授

 慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008 年 米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019 年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。

───アンケート結果をご覧になっていかがですか。

率直に言ってDE&Iの進捗状況は満足できるものではありません。DE&Iは重要としながらも、アクションにつながっている会社がほとんどない。広告業界はビジネスにおいて様々なクライアントや関係者と仕事をしている。広告コミュニケーションを通して世に情報発信を行っている。そういう意味で広告業界は日本で一番率先して変わるべきで、逆にいうと広告業界が多様性を高めないと日本全体が変わらないとも思っています。アンケートの取り組み自体は素晴らしいので、ぜひ定点観測していってほしいです。

 

多様性は企業の競争力の源泉

 

───DE&Iが進まない理由は何だと思いますか。また、進めるためにやるべき事は何でしょうか。

「なぜDE&Iが必要か。なぜやらなければならないのか。」が役員、経営層にピンと来ていないことが一つ挙げられます。社会的な意義は当然ありますが、根本的に多様性は企業の競争力の源泉でもあります。イノベーションはどこから来るのかというと“多様性”です。新しいアイディアは既存知と既存知の組み合わせで生まれます。でも人間一人の知見ではとても狭いので、遠くの幅広い知見と組み合わせる必要があります。その知見は誰が持っているかというと人間が持っているわけですから、多様な人が組織にいれば多様な知見が集まります。「DE&Iを高める余裕がない」「コストがかかる」と思っている方達もいますが逆です。多様性がないと業績も上がりません。

DE&I推進にはトップのコミットメントが欠かせませんが、具体的なコミットメントとしては、メッセージよりも「人事」です。タイバーシティ担当をつくるとか人事担当者に責任を持たせるなどです。もう一つは、「多様性は会社全体を変える中での一つに過ぎない」と捉えることです。これからの時代は、会社は従来の在り方から変化して、イノベーションを起こし世の中に貢献しながら収益を得ていくことになります。これには会社あるいは経営の根本的なトランスフォーメーションが必要で、その一つとして多様性・DE&Iがあるという位置づけです。

こうした大きな変化は3年とかでは出来ません。1020年かかります。日本の会社が抱える課題は「人」と「組織開発」ですが、この二つはお城でいうと石垣のような基礎工事です。コツコツと時間をかけて作っていく、長期戦略です。

 

日本企業の課題「人」「組織開発」は長期戦略で取り組む
多様性がなければ若手は入ってこない

───DE&Iは不確実なもので、成果を言語化・定量化しづらい面があります。DE&Iに関心がない人達とも課題意識を共有するためにどんな呼びかけをすると良いでしょうか。

DE&Iといった類は確かに簡単には測れません。まずは中長期的に見て多様性が高い方が競争力が高いと理解してもらうこと。またとりわけ現場や中間層の人達に対して、会社存続の危機感を感じてもらうこと。この人達は目の前の業務に意識が向きがちで精一杯だと思うのですが、イノベーションを起こさなければそもそも会社が危ないよということを発信する。それから、意識を向けるべきは若手の人達。若手は、これからの社会人人生を見据えた時に今の会社に「このままいて良いのかな」という感覚が強いんです。そんな時に、先輩を見たら目の前の数字に必死で、トップも空虚な危機感のメッセージを発するだけとなったら、若手は絶望します。多様性があって自分の力を発揮できる場所に若手は移り、このままだと若手が取れない会社・業界になる恐れもあるのです。

社内の意識を変えるために是非やってほしいことが、一つは研修。もう一つはマイノリティ経験をしてもらうこと。後者については、たとえば男性の多い企業だと男性がジェンダーマジョリティですが、男性が一人しかいない会議を体験してもらうなどです。少数派の気持ちは経験してみないと分からない部分もあります。

会議という点でいうと、DE&Iが進むと会議はもめます。多様な人がいるのだから多様な意見が出なきゃおかしい。ここで大事な役割を担うのが中間管理職の人達。皆が自由に意見を言って良いんだという空気を醸成し、多様な人達の意見を引き出すことです。これからの管理職には“管理”ではなく“ファシリテーション”に力を注いでいってほしいですね。

これまで話したような変化が広告業界で起きいていけば、その影響力の大きさで日本全体にも変化を促すことができます。まず自分達が動いて変わっていくことが何より大事で、業界に求められていることだと思います。