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ビルコム株式会社
プロデュース局

茅野 祐子

「“推し”と歩む仕事人生」

 

“推し”のいない人生を送ってきた。小学生の頃、好きなアイドルについて語るクラスメイトの議論ではもっぱら聞き役で、その後も友人や同僚が“推し”を熱く語る姿を羨みながら生きてきた。

 

大好きで応援している人や物を指す“推し”という言葉はすっかり定着し、「Z世代を理解するには “推し活”を知るべし」という記事も多く目にする。私自身はZ世代ではないものの、“推し活”経験のない自分にすこし引け目を感じるのも事実だった。

 

そんな私が、半年ほど前からあるK-POPグループを“推す”ようになった。きっかけは流行に追いつこうとしたことだが、一度調べだすと止まらなくなった。
まず圧倒されたのは、ファンとのコミュニケーション手法や内容だ。洗練されたパフォーマンスや芸術的なMVといった表の姿を広く発信する一方で、裏側の苦悩・苦労をドキュメンタリーなどでチラ見せする。と思えば、SNSやライブ配信、バラエティ番組を通じて、親しみやすい人柄を伝える。世界中から“推される”アーティストは情報設計も超一流だと感じた。

 

“推し”たちが発信する情報はファンの中でさらに咀嚼され、ハイコンテクストな共通言語が生まれていることも知った。“推し”という共通体験が、国も文化も違う多くの人を結びつけていた。特に感銘を受けたのは、ファン同士によるファンダムへの貢献だ。韓国語で書かれたアーティストのSNS投稿やライブ配信で話された内容を、世界中のファンたちがあらゆる言語に即座に翻訳し、 Twitter上で共有する。スラングや韓国文化を解説してくれる人もいる。もちろんボランティアだ。

 

素晴らしいファンダムを目にしていると、自分がその一員だと名乗るのがおこがましいような気がしてくる。そんな不安を“推し活”歴の長い同僚にこぼしたところ、「“推し活”は自由で、自分が元気をもらえるもの。好きなように推せばいい」と励ましてくれた。“推し活”の世界は多様性に満ちているようだ。

 

そう考えると、これまで「推しがいない」と思ってきた私の人生も違って見えてくる。デザイナーの考え方に共感しているファッションブランド、元気を出したいときに決まって頼むカフェのメニュー。そして何より「コミュニケーションの仕事」は私の“推し”と言っていいだろう。言葉にされていなかった価値を可視化し、ときには課題の解決策自体にもなりうるこの仕事の可能性に、勇気をもらっている。

 

まだまだ“沼の深淵”など見るべくもない私だが、 “推せる”仕事に携わっている喜びを感じるとともに、すこしでもこの“ファンダム”に貢献できる広告人でありたいと改めて思った。
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